住宅における断熱性能の重要性は、快適な居住環境を実現し、エネルギーの節約に繋がる点にあります。この記事では、断熱性能とは何か、その必要性について詳しく解説します。
さらに、適切な断熱材の選択や気密性の向上、窓の断熱対策についても取り上げ、理想の住まいづくりに役立つ情報を提供しますので、ぜひお役立てください。
目次
住宅の断熱性能とは – 断熱性能の必要性
住まいに関連する情報では「高断熱」「断熱材」など、「断熱」という言葉がよく使われますが、その重要性や真の意味を理解している方は意外と少ないかもしれません。
住まいにとって欠かせない断熱の本質をわかりやすく再確認し、なぜ断熱性能が住宅にとって必要不可欠なのかを解説します。
断熱性能とは
住まいの断熱は、内外を仕切る素材の熱伝導率を下げ、熱の移動を防ぐことを目指します。
断熱性能の高い建材を使用すれば、外気温の影響を受けにくい快適な住まいが可能です。この断熱性能は、「外皮平均熱貫流率(UA値)」で評価され、低い値ほど断熱性が高いことを示します。
高断熱と混同されやすい「遮熱」という言葉は、断熱とは異なる意味を持ちます。遮熱は夏場の強い日差しによる温度上昇を抑えることを重視し、一方で断熱は気温の高低に関わらず外気温の影響を軽減します。
快適な住まいを実現するためには、遮熱と断熱の両方が重要ですが、意味を混同しないように注意が必要です。
断熱性能の必要性
断熱性能が必要とされる理由として、主に以下の5つの理由が挙げられます。
1年を通して快適に過ごせる
断熱性能が高い住宅は、外気温の変化に影響されにくく、室内の温度差が少ないため、1年を通して快適に過ごせます。一方、断熱化されていない住宅は、夏は暑く、冬は寒い状態が続く可能性があります。
断熱性能の高い住まいは、外気の侵入を防ぎ、少ない冷暖房エネルギーで快適な室内温度を保つことが可能です。
冷暖房費を抑えられる
高い断熱性能の家は外気温の影響を受けにくく、冷暖房の効率が向上します。家庭エネルギー消費の約25%が冷暖房に充てられ、特に冬季の暖房には多くのエネルギーが必要です。
断熱性能の高い家と低い家を比較すると、年間の冷暖房費に20万円近くの差が出るケースも存在します。高い断熱性能の家は長時間にわたって室温を保つため、低い冷暖房費に抑えられます。
きれいな空気を保てる
断熱効率を高めると室内の気密性も向上し、室内の空気がきれいに保たれます。
気密性が高くても換気システムがあれば、換気効率が向上し、設計通りに空気が循環します。現在の建築基準法では24時間換気システムの設置が義務付けられており、家の断熱性、つまり気密性を高めることが換気効率の向上につながるのです。
健康が守れる
断熱化されていない住宅では、冬の暖かい室内から寒い廊下やトイレへの移動、また浴室から寒い脱衣所への移動の際に急激な温度変化が起き、ヒートショックのリスクが高まります。ヒートショックは、脳卒中や脳梗塞、心筋梗塞などの重篤な疾患を引き起こす原因の1つとされ、特に持病のある方や高齢の方にとって注意が必要です。
一方、断熱化された住宅では、家中が適切な温度に保たれ、部屋間の温度差が少ない「温度のバリアフリー」が実現します。これにより、家の中の危険な温度差が減り、安心して過ごすことができます。
家の寿命を伸ばす
断熱性能の高い家は、家の寿命を伸ばすことにもつながります。冬の結露は断熱性能が低いために引き起こされる問題で、カビやダニの発生を促進し、アレルゲンの原因になります。
さらに、湿った床下の空気が壁の中に侵入し、内部結露を引き起こすと、柱や土台の腐食を進めてしまいます。これにより、家の健康な状態の期間が短くなってしまう可能性があるのです。
断熱性能の高い家では、室内の温度ムラが少なくなり、効果的な換気がおこなわれるため、結露の問題に悩まされることがありません。
住宅の断熱性能を高めるには?
1年中、どこにいても快適な住まいを実現するには、断熱材を施す箇所を1か所だけに施工するのでは不十分です。施工場所や方法、建材すべてに気を配る必要があります。
ここでは、断熱性能を高めるために特に注目すべき3つのポイントを解説します。
高い断熱性を持つ建材を採用する
住まいの断熱性を向上させるためには、断熱性の高い建材を選ぶことが非常に重要です。
断熱を実現する方法として、「外張り断熱」と「充填断熱」の2つの工法があります。外張り断熱は、構造躯体の外側を断熱材で包み込み熱の移動を遮断する方法。
充填断熱は柱の間や床下、天井の上など、建物の内側に断熱材を詰める方法です。
さらに、断熱する場所によって使う建材を選び分けることも大切です。
例えば、断熱性だけでなく薄くて軽く、防湿性にも優れた発泡プラスチック系断熱材は、雨や真夏の強い日差しを受ける屋根や外壁に適しています。適切な建材を使って、快適な住まいの断熱性を実現しましょう。
隙間をなくして気密性を向上させる
隙間をなくし、気密性を高めることは重要です。断熱性の高い建材を使っても、住宅の施工によっては隙間ができてしまうことがあります。気密性が低い状態だと、十分な断熱効果が得られなくなってしまうのです。特に気密性が損なわれやすいのは、玄関ドアや窓などの開口部です。
また、家の土台と基礎の接合部や断熱材の端部の隙間も気密性に影響します。断熱建材の効果を最大限に引き出すためには、隙間部分にはしっかりと密封加工をおこなうことが必要です。
窓の断熱性を高める対策をおこなう
夏の強い日差しや冬の冷気など、窓は住宅内で外気の影響を受けやすい場所です。実際、冬には室内にある暖気の58%が窓などの開口部から流出し、夏には室内に熱の73%が窓から侵入します。窓は建物の躯体部分よりも熱を通しやすいという特性があります。そのため、窓の断熱性を高めることで、室内が外気の影響を受けにくくなるのです。
窓の断熱性を向上させる方法としては、以下のような対策があります。
・窓のガラスだけを断熱性能の高いガラスに交換する。
・内窓を増設して二重の窓にする。
・断熱性能の高い窓に丸ごと交換する。
さらに、徹底的な断熱を実現するためには、窓には熱の伝導を低く抑えた樹脂サッシや、遮熱効果の高い複層ガラスを使用することが重要です。これらの対策によって、窓からの熱の出入りを効果的に抑え、快適な室内環境を保つことができます。
断熱材の種類と特徴を知って、
理想の家づくりに繋げよう
快適な家づくりの鍵を手に入れるために、断熱材の魅力と特徴を知ってみましょう。断熱材は大まかに「無機繊維系」「木質繊維系」「天然素材系」「発泡プラスチック系」という4つのカテゴリーに分けられます。各種類の特性を把握することで、理想の住まいを実現することができます。
無機繊維系
無機繊維系断熱材は、ガラスや岩を微細な繊維状にし、その間に空気をしっかりと閉じ込めることで優れた断熱効果を発揮する素材です。無機繊維系断熱材には、グラスウールやロックウールなどが含まれます。
グラスウール
優れた性能から「断熱材=グラスウール」として多くの住宅で採用されています。しかし、他の断熱材の性能向上により、グラスウール=断熱性能が低いという誤解が広まっています。
実際には、グラスウールにもグレードがあり、繊維密度が濃く厚みのあるものを選ぶと性能も向上するため安心してください。
ロックウール
グラスウールと同様に耐火性や防音性に優れていますが、断熱性においてはグラスウールを凌ぐ性能を持っています。そのため価格はやや高めですが、その性能に見合った価値があります。
ロックウールは撥水性が高い一方で、湿気には弱い特性がありますので、湿度対策が必須です。
木質繊維系
自然素材の特長を活かした優れているもう一つの繊維系断熱材を「木質繊維系」と呼びます。
代表的な木質繊維系断熱材として挙げられるのは、セルロースファイバーです。古紙やダンボールなどの再生紙や木材由来のおがくずなどを原料としており、自然素材の特性を活かしています。
セルロースファイバー
繊維系の中でも高い断熱性を持ち、またグラスウールなどと比較しても優れた性能を備えていますが、そのためにやや割高になる傾向があります。
またセルロースファイバーは自然の木材を利用しているため、体に優しいという特長があります。さらに、耐火性や防音性、防虫効果にも優れていることから、近年ニーズが増加している素材です。
天然素材系
自然が生んだ身近な素材を活用した「天然素材系」の断熱材は、あまり主流ではありませんが、健康住宅などで使われることも増えている注目の素材です。天然素材系にはウールブレスや炭化コルクが該当します。
ウールブレス
羊毛を原料として体に優しい防虫処理を施したものです。その防虫効果は半永久的に持続すると言われています。最大の魅力は、羊毛特有の高い調湿性と優れた断熱性です。自ら湿気を吸湿・放湿し、空気をため込んで断熱効果を発揮します。
また、古くから絨毯などに使用されているため、耐久性にも優れています。ただし、デメリットとして価格が高く、また断熱材の中では新しい素材であるため、適切に施工できる業者を見つけるのに手間がかかるかもしれません。
炭化コルク
ワインの栓などの製造で出たコルクの端材を利用して炭化させたものです。多くの空気を含んでおり、断熱・調湿・吸音性に優れています。
また、原料となるコルク樫には自然由来の防虫効果があり、ダニを寄せ付けません。端材を再利用しているため、環境にも優しい素材ですが、価格はやや高めになります。
天然素材系の断熱材は、健康と環境に配慮した住宅づくりに興味がある方にとって、魅力的な選択肢となります。
発泡プラスチック系
発泡プラスチック系断熱材には、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォームなどが含まれます。これらはプラスチックの中に無数の細かい気泡を閉じ込めることで、優れた断熱性能を発揮するものです。気泡の数や大きさによって断熱性能が異なるため、選ぶ際には注意が必要です。
硬質ウレタンフォーム
吹き付けタイプもあるため現在需要が高まっている断熱材ですが、注意点として可燃時に有毒な「シアン化水素」が発生することがあります。そのため、火災時には火に弱いとされています。
フェノールフォーム
熱を帯びるとプラスチックが硬化する特徴があります。このため、耐熱性が求められる住宅用の建材として良く使われてきました。断熱性能を重視する場合はフェノールフォームがおすすめですが、高性能なものは価格が高めです。
ビーズ法ポリスチレンフォーム
お歳暮などで届く箱状の発泡スチロールや宅急便の発砲スチロールの箱などと同じ素材です。水に強く、湿気にも強い性質を持ち、コストも安価で施工が容易です。そのため、昔から幅広く断熱材として使用されています。
押出法ポリスチレンフォーム
ビーズ法ポリスチレンフォームと性能的にはほとんど変わりありませんが、製造工程が異なるためプラスチックの粒が小さく、断熱効果が高いと言われています。
また、安価で軽量で加工がしやすいため、基礎断熱や土台断熱などに幅広く使用されています。断熱材にはさまざまな種類があり、それぞれに長所や短所があります。種類が多くてどれが良いのか分からない方は、上記の情報を把握した上で、信頼できるハウスメーカーに相談することをおすすめします。
住宅の断熱性能は快適な生活や節約に不可欠です。適切な断熱材の選択と気密性の向上、窓の対策や無機繊維系や木質繊維系、天然素材系、発泡プラスチック系など、種類があり用途に合わせて選ぶことが重要です。信頼できる専門家に相談し、快適な家づくりを進めましょう。